熊本兼|人吉|球磨焼酎|手造り|焼酎|原点

 焼酎は日本、南九州に500年前に誕生し、今や、日本全国の皆さんの生活文化に溶け込んでいます。 米、麦、芋。様々な原料の焼酎があり、様々なシーンで、様々な飲み方で味わっていただいているものです。 そして全国で毎年おびただしい数の新商品が開発され、消えていっています。
 焼酎とは、いったい何なのでしょう。そんな問いが頭に浮かびます。 焼酎の原点は何なのか。どのような価値がこの飲み物にあるのか。 その答えを探求していった先にこれからの焼酎の進むべき道が見いだされるように思います。
 私は、焼酎の原点は次の4つの角度からとらえることができると思います。

①歴史 ②伝統製法 ③百薬の長 ④自由の酒

 この4つの角度から焼酎の原点を探りながら、大和一酒造元の取り組みついてご説明してみたいと思います。

焼酎の歴史

日本でもっとも古い焼酎の記録は1546年のある報告書です。それは、日本に滞在していたポルトガル商人のジョルジュ・アルバレスが、日本に来航しようとしていたフランシスコ・ザビエルに宛てたものでした。

「日本には、米からできたオラーカおよび身分の上下を問わず皆が飲む飲み物がある」(日本報告)

 オラーカとは、東南アジアで蒸留酒のことを言います。米の蒸留酒、つまり米焼酎がもっとも古い焼酎として日本に存在していたのです。さらに、「および、身分の上下を問わず皆が飲むものがある」と書かれていることを考慮すると、米焼酎は上の身分の人しか口にできない贅沢な飲み物だったのではないでしょうか。この頃は、まだ芋焼酎など造られていません。それもそのはず。サツマイモの栽培が中国から沖縄本島を経て九州本土(鹿児島)に伝わったのは1709年で、芋焼酎が歴史に登場するのは1795年です。ですから、1546年にザビエルに紹介された焼酎は米焼酎であって当然なのです。

日本で水田での米作りが始まったのは、縄文時代後半の紀元前930年頃と言われています。以来、水田稲作は日本の津々浦々に広まり、米作りを中心にした生活習慣、文化が形成されてきました。そこで、米からお酒が造られたのも当然です。世界中どこでも、その土地に根差した農産物から酒は造られるものです。メソポタミアでは麦からビールが生まれ、古代ギリシアローマでは葡萄からワイン、メキシコでリュウゼツランからテキーラが造られました。日本では、米から日本酒というのが必然でしょう。 そうして、米から米焼酎です。南九州でもかつては日本酒が造られていましたが、より美味しいお酒を追求した結果、今から500年前に米焼酎を造るに至ったのです。南九州の温暖な気候では酒を造るのにうまくいかなかったこともあったでしょう。腐敗の心配がなく、より高濃度で美味しいアルコールを得る方法として蒸留という方法を取り入れたのだと考えられます。

米作りという日本の生活文化、そこから生まれたお酒。その醸造技術に蒸留技術を組み合わせた米焼酎。米焼酎が焼酎の原点だという理由はここにあるのです。鹿児島でも古くから米焼酎が造られていましたが、火山灰の多い土壌が米作りにあまり適さないということもあり、サツマイモの栽培が増え、少しずつ芋焼酎の製造量が増えてきました。しかし、人吉球磨地方は違いました。ここは豊かな水と土壌に恵まれ、米作りに最適な土地です。500年間ずっと米焼酎が中心であり続けました。その品質の高さが評価され、いつしか米焼酎の代表として「球磨焼酎」と呼ばれるようになりました。

大和一酒造元は球磨焼酎の蔵元として米焼酎にこだわっています。特に、「本来の米焼酎とは何か」を追求しています。古い文献を辿っていくと、かつての米焼酎は現在のものと製法がずいぶん違っていました。まず原料です。現在は1割ほど精米した白米を使っていますが、本来は玄米であり、それは明治期まで続いていました。明治の蔵人たちは「玄米でないと焼酎はできない」と豪語していたほどです。また、麹については、現在は麹屋さんから種麹を購入して使っています。それが明治期までは違いました。蔵に浮遊している麹菌を捕まえて育てて米麹を造っていたのです。そして、その麹菌は今とは違い黄麹菌でした。さらに、蒸留も今とは違い兜釜蒸留機を用いてきました。

このように歴史を振り返ると、今とはずいぶん違った米焼酎の姿が見えてきます。しかしそれは焼酎というものが生まれたときの製法であり、明治期までの400年以上受け継がれてきたものです。価値があるからこそ長きにわたり続いたのです。大和一酒造元では、これこそが焼酎の原点と捉え、古い製法の再現に取り組んでいます。古いものを知ること、原点に立つことが新しい価値を生み出すエネルギーになると信じて。

伝統製法

科学的、合理的であることが正しいと信じられています。より短い時間で、より低いコストで、より簡単に製品を生産することを多くの生産者は追及しているように見えます。確かに、 均一で低価格な製品を世に出すためにはそれは良いことかもしれません。しかし果たしてそれが唯一の正解なのでしょうか?

例えば麹の温度管理。現在は、多くの蔵では製麹の機械で麹を造っています。温度を自動的に測り、設定よりも温度が低ければ自動的に加熱し、高ければ自動的に冷却してくれるので、蔵人は機械の管理をするだけでよい。ということで、楽に均一な麹ができ上がるように思えます。最近では、温度も機械の様子もスマホで確認ができるようになっています。

昔の製麹方法は違いました。麹室に蔵人が入って、汗だくになって麹を育てました。温度を測るのは蔵人の手の感覚。一見、非合理的で、良い麹ができないように思えるかもしれません。しかし、経験を重ねた蔵人の手の感覚はすぐれています。麹室の中で麹に手を差し入れた瞬間に、麹全体の温度、麹の育ち具合がわかります。温度計では多量の麹の中の一部の温度しか測定できませんが、手で直接混ぜ込むうちに麹全体の温度や育ち具合がわかるのです。さらに、経験を積んだ蔵人の目は麹菌がどのように繁殖しているのかを判断することができ、研ぎ澄まされた嗅覚はその麹からどのような焼酎に仕上がっていくのかを予測することもできました。このように、蔵人の五感をフルに活用しながら麹を育てることができるのは、麹室の中で長い時間、麹と触れ合っていればこそです。 そうして、麹室で、蔵人の手によって育てた麹で造った焼酎だけを「手造り」と言います。そして「手造り」とラベルに表記することを酒税法で認められているのです。本来の意味での「クラフト焼酎」です。

このように、一見原始的に思える伝統製法であっても、500年受け継がれた技には意義があるのです。伝統的な製法は時間やコストがかかり、また簡単な方法とは言えません。しかし大和一酒造元では、このような伝統製法を焼酎造りの原点ととらえ、すべての焼酎を「手造り」で造り上げています。

さらに、他にも伝統製法のすぐれた点があります。それは自由(柔軟性)ということです。機械を使えば機械に縛られることがありますが、蔵人の手づくりではそういった制約から解放されます。例えば麹造り。機械では一定量の麹しか造ることができませんが、手造りでは、通常200kg麹を造る麹室で20kgの麹を造ることも可能です。人が携わることで融通が利く。これも手造りの良さなのです。

大和一酒造元では、このような手造りのすぐれた点を活かして、細やかに配慮しながら様々な製品に挑戦しています。

百薬の長

酒は百薬の長」と言われますが、特に焼酎は昔からその意味合いが強かったようです。

江戸時代の滑稽本「東海道中膝栗毛」では、次のように焼酎が登場します。

商 人 「ハイ、焼酎は入りませぬか、白酒あがりませぬか」
喜多八 「ヲット、その焼酎少しくんな・・・」
      と、茶碗に注がせて銭を払い、かの焼酎を足に吹きかけ
喜多八 「よしよし、これで草臥れ(くたびれ)が休まるだろう。」

足の疲れをとるために焼酎を利用していたのは喜多八だけではありません。江戸時代に書かれた旅の心得「旅行用心集」によれば、 足が特にくたびれたときは、入浴後、焼酎を足の三里より下、足の裏まで吹きつけるとよいとされています。手で塗ったのでは効かないということです。

江戸時代の食べ物百科事典「本朝食鑑」でも焼酎は薬のような効能があると書かれています。

 ・吐いたり下したりする病や夏バテのときは焼酎を温めて飲む
・尿が出ないときは焼酎で冷水で割って飲む。
・目の病(欝血赤眼)のときは度の強い焼酎で目を洗う。
 ・刀傷には、血をとめた後、焼酎を温めて洗うと破傷風にならず、治りが早い。
・しもやけで痛がゆいとき、ひび、あかぎれがある時は焼酎を温めて洗う。

このように、江戸時代、焼酎は様々な病気やけがに効果がある医薬品として使われていたのです。

明治に入っても焼酎は薬用に使われていました。例えば宮崎出身の歌人若山牧水。彼は大酒飲みでしたが、祖父は下戸でした。その祖父が病で寝込んでいた時、枕元には常に球磨焼酎が置いてあったそうです。もちろんそれは何らかの薬用のため。その薬用の焼酎を、牧水の酒豪の祖母がこっそり飲んでいたというから傑作です。

焼酎が薬用なのは昭和になってからも。私の幼少期(昭和40年代)、風で喉が痛いと言ったら、のどに焼酎湿布。捻挫をしても焼酎湿布。お腹を壊したら青梅を漬け込んだ梅焼酎をゴクリとひと飲み。それで不思議とお腹の痛みが和らいだものです。やはり焼酎は万能薬でした。

 西洋の焼酎=蒸留酒もまた人に生きる力を与えていました。フランスでブランデーなどの蒸留酒を「オードヴィ」と言い、その語源はラテン語の「アクアヴィテ」(命の水)です。ウイスキーの語源もゲール語の命の水=「ウシュクベーハー」です。

 このように焼酎は古今東西、人の体を癒し、生きる力を与える存在。まさに百薬の長として活用されてきたのです。

近年は科学の進歩により、焼酎が健康に良い影響を与えることが科学的に証明されてきています。

【血液サラサラ効果】 本格焼酎を飲むとウロキナーゼという酵素が血液中に増加。これが血栓を溶解して血液の流れを良くし、脳血栓や脳梗塞、心筋梗塞や狭心症の予防、改善に効果を発揮する。  
【善玉コレステロール増加】 本格焼酎を適量飲むと善玉コレステロールが増加して、悪玉コレステロールを肝臓へ運び去り、心筋梗塞や動脈硬化の進行を抑える。
【尿酸値の上昇を予防】 本格焼酎にはプリン体が含まれていないので、尿酸値の上昇が抑えられ、痛風などの予防につながる。
【心の安定効果】 本格焼酎を飲むと脳内物質GABA(ギャバ)の分泌が促進され、心を安定させる鎮静作用が働く。

 このように、様々な健康効果がある本格焼酎ですが、中でも、大和一酒造元の焼酎は特に健康志向を強く意識したものになっています。仕込みや割水に使っているのは温泉水。この温泉水の泉質は炭酸水素塩泉・塩化物泉といいます。飲用効果として、便秘、痛風、糖尿病、逆流性食道炎、胃炎、十二指腸潰瘍が謳われています。また温泉水がアルカリ性であるため、焼酎自体もPH8.0~8.5のアルカリ性。体内をアルカリ性に保ちやすくするため、体への負担が少なく、酔い覚めも爽やかです。

また牛乳焼酎については、「頭皮につけて髪が元気になった」とか、「顔につけてシミやしわが薄くなった」など多数のお客様の声をいただいています。

百薬の長としての焼酎の原点をしっかりと表現できる焼酎を大和一酒造元では目指しています。

自由の酒

お酒というものは楽しく飲むものでありますが、時折むずかしいことを要求されているように感じることがあります。例えばワインの場合、産地やブドウの品種、醸造年代、料理との相性など、知識がないと飲めないのではないかと高い壁を感じる人もいるかもしれません。そもそも海外産のワインの場合、ラベルの文字を読み取ることができないというのも難しくしている要因です。日本酒においても、「山廃」や「荒走り」など製法などに関する専門用語が多くて戸惑うことがあるのではないでしょうか。それぞれの日本酒の特徴に応じて最適な飲み方が違ってくるのも難しさを感じるところかもしれません。本当は、ワインでも日本酒でも自由な飲み方できるはずなのでしょうけれど…。

焼酎については自由な飲み方ができるということを日頃から皆さん体感していらっしゃるのではないでしょうか。同じ焼酎でも、季節によってはお湯割りにしたり、ロックにしたり。体調がすぐれないときはうすい水割りにしたり。その時々の状況で飲み方を変えて飲んでいらっしゃいます。焼酎は時代を経るごとに様々な飲み方が考え出され、時代にあった飲み方を飲み手の皆さんが自由に選択してきました。例えば、明治のころはアルコール度数を35度にして燗して飲むのが一般的でしたが、昭和に入るとそれが25度になり、飲み方もお湯割りやロックが登場しました。では、明治以前はずっと同じだったかというとそうでもありません。江戸時代などは「砂糖焼酎」なる飲み方があったようで、相良の殿様が将軍にお目見えした時の献立表に記載されています。また、「みりん」というのも元は調味料ではなく焼酎の飲み方のひとつ。これは焼酎にもち米と米麹を加えて甘くしたお酒で、江戸時代中期の「和漢三才図会略」には「近頃は味醂酎が多く造られ、その味がとても甘いので下戸や婦女が喜んで飲んでいる」とあります。

 原料についても、焼酎は元来お米から誕生したわけですが、そのほかにいろいろな原料で古くから焼酎は造られてきました。貴重な米を使わないようになどの雑穀も庶民の間では使われていましたし、江戸時代の中頃からは鹿児島で焼酎も造られるようになりました。さらに相良藩の藩校教習館の館長東白髪は栗焼酎を好んで飲んでいたようです。このように、米を基本としながらも、時代により、地域によって様々な原料が焼酎造りに使われ、人々に愛されてきたのです。

 大和一酒造元にはこのような地域や時代に応じた自由な発想から生まれた焼酎があります。人吉で500年以上の歴史を持つ温泉を焼酎づくりに活かした温泉焼酎。そして牛乳焼酎。熊本県は酪農がとても盛んで、牛乳の生産量は北海道、栃木に続き第3位。西日本では断トツの1位です。この特産品である牛乳を活かし、健康的な焼酎を造ろうと取り組んで生まれたのが牛乳焼酎です。牛乳は腐敗しやすい素材であるため原料とすることにはためらいもありましたが、自由な発想で勇気をもって取り組めばよい結果が得られるものです。当初イメージしたものよりもはるかにフルーティでなめらかな焼酎ができ上がりました。まさに瓢箪から駒です。

 これからも、既成概念にとらわれず、自由な発想で焼酎造りに取り組んでいきたいと考えます。この自由さが焼酎の本質のひとつだと思います。

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